記者たち~衝撃と畏怖の真実(Shock and Awe)

映画「記者たち~衝撃と畏怖の真実」の字幕翻訳に関するメモです。

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(ウィキペディアより引用)
ストーリー
2002年1月29日、ジョージ・W・ブッシュ米大統領は一般教書演説で「イラクが大量破壊兵器を保有し、テロを支援している」と糾弾した。マスメディアもイラクへの軍事介入を肯定する論調が支配的であった。そんな中、ナイト・リッダー(英語版)のワシントンD.C.支局のジャーナリストたちはブッシュ政権に懐疑的な姿勢をとり続けていた。「イラクは本当に大量破壊兵器を隠し持っているのか」と。だが翌2003年3月、アメリカはイラクとの開戦に踏み切った。衝撃と畏怖(英語版)作戦に則った米軍はあっという間にイラクを占領し、アメリカ国民は悪の枢軸の一画が崩壊したことに狂喜したが……。
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いつもの通り、PotPlayerで日本語と英語の字幕を同時表示し、スクリーンショットをとりました。

(以下字幕)
What’s going on over at State?
政府の反応は?
Powell’s in Peru. They’re working on getting him home as soon as possible.
パウエルはペルーからの帰国の途中
All right, what we need to do is track the President.
まず大統領を追え
Track his top people and find out… who’s responsible for all this.
どの側近がこの件の責任者になるかを探れ
(字幕終わり)

Stateは、ここではthe Department of Stateの略ですので、「国務省」と明示した方がいいと思います。over at ~は、「あっちの~では」くらいの感じでしょうか。

最後の文のwho’s responsible for all thisは、「責任者」の可能性もありますが、やはり「犯人」、「首謀者」でしょう。「責任者」であれば、be in chargeが普通です。責任者は、電話すれば分かります。Responsibleとあれば何でも「責任」と置き換えるのは危険です。

次です。

(以下字幕)
Well, the wifey wanted to evacuate…
女房が避難しようと猫を家に閉じ込めた
but she locked the cat and the keys in the cars.
車のキーも閉じ込めた
(字幕終わり)

「家に閉じ込めた」は英語にはありません。she locked the cat and the keys in the carsは、「猫を車に入れ、キーを挿したまま車のドアを閉めたらロックされてしまった」という意味かと思います。ただ、carsが複数なので、そうでないかもしれません(字幕の間違い?)。

次です。

(以下字幕)
We need to know how they pulled this off.
まず政府の反応だ
(字幕終わり)

pull ~ offは「~を成功させる」、「やり遂げる」です。thisは事件(9.11)です。「彼らが(犯人たち)がどうやって実行したが、それを知る必要がある」がここの意味です。

次です。

(以下字幕)
I’ve directed the full resources of our intelligence and law enforcement communities to find those responsible…
情報機関と法執行機関のあらゆる資源を活用し
and to bring them to justice.
犯人を見つけ 裁きを受けさせます
(字幕終わり)

ここのresponsibleは正しく解釈されています(上記参照)。resourceは、物的資源と人的資源の両方(人と物)が含まれます。

次です。

(以下字幕)
Woolsey was sent to Europe to look for evidence… linking Saddam to the World Trade Center bombing in ’93.
ウールジーが欧州に飛び テロとイラクの関連を調査
Wouldn’t be a fool’s errand if they didn’t send a fool.
誰が行こうが無駄足だ
(字幕終わり)

the World Trade Center bombing in ’93とは、1993年にも世界貿易センターの地下駐車場で爆弾事件があったのです。最後の(It) Wouldn’t be a fool’s errand if they didn’t send a fool.ですが、「(上部が)バカを送らなければ、fool’s errand(無駄足、骨折り損)にはならないだろう」。つまり、「少しは/それなりの効果はある」ということで、訳文は意味が逆です。

次です。

(以下字幕)
Now, the administration’s top priority apart from our own…
今や最優先事項は自国の安全じゃなく
security is to ensure freedom for other countries…
自由な国を増やすことだ
looking to embrace democracy as a way of life.
民主主義の生き方を受け入れるように
(字幕終わり)

apart fromは「~は別として、~を除いて」ですから、「自国の安全じゃなく」は誤解を招きます。「今や政府の最優先事項は、自国の安全は別として/自国の安全だけでなく/自国の安全も大事だが、~」などとするのが妥当と思われます。

次です。

(以下字幕)
So much for the ceasefire.
停戦か?
Yeah, well, really nice of us… to temporarily stop shooting at them, though.
停戦の間は敵を撃たずにすむからな
(字幕終わり)

So much forの訳は少し迷いますが、ここでは「もう十分だ、もうたくさんだ」と考えるのがいいかもしれません。つまり、「停戦はそろそろあきたな/もういいな」、「ああ、それでも、停戦の間は敵を撃たずにすむから、それは実にいいことだ/人道的だ」などと訳せます。

次です。

(以下字幕)
The Philadelphia Inquirer was a Knight Ridder paper, right?
イウクワイアラー紙は ナイト・リッダー傘下だろ
(字幕終わり)

a Knight Ridder paperは、訳文の通りナイト・リッダー(新聞社)の傘下の新聞社。Columbia is a Sony companyは、ソニー傘下/系列の会社です。

次です。

(以下字幕)
BROKAW: And today, for the first time the administration provided details for what it has always insisted was a connection
政府は今日初めて 以前から噂のあった
between Saddam Hussein and Al Qaeda.
イラクとアルカイダのつながりを公表
(字幕終わり)

details for 以下は、 [what it (=the administration)has always insisted was] a connection between Saddam Hussein and Al Qaedaという構造です。つまり、[ ] 内は挿入句です。ここではdetails forですが、前置詞はonもあるようです。

また、どうしてwhat you callの場合はbe動詞は付かないのに、この例にはあるのか(was)といえば、それは慣用だからかもしれません。または、what it has always insisted wasの中のit has always insistedがさらに挿入句であるからとも言えます。what he thinks isを考えるとわかりやすいかもしれません。

「政府は、以前からずっとサダム・フセインとアルカイダは何らかのつながりがあると主張していましたが、今日初めて、その(つながりの)詳細を発表しました」が意味です。

「噂」ではありません(まあ、結果的にそうしようを思ったのでしょう)。フセインとアルカイダのつながりは政権の意図であり、大量破壊兵器の存在も同様です。政権の責任者はいまだに明るい道を歩いています。

次です。

(以下字幕)
To what do I owe this unexpected visit?
君が来るとは驚いた
Well, I was hoping I’d get an autograph…
from the world’s most famous war correspondent.
高名な戦争特派員のサインが欲しくてね
(字幕終わり)

To what do I owe this unexpected visit?は、「この思いも寄らない/予想外の/突然の訪問に対して、どう借りを返したら/お礼をしたらいいでしょうか」が直訳です。その返答が、「(以前から)世界一有名な戦争特派員のサインが欲しくて、それで借りを返してください/お礼としてサインをください」ということです。

次です。

(以下字幕)
You guys are smart.
君らは頭がいい
You know what’s unfolding here.
先が見えてる
Our readers need to know what we’ve learned.
読者にも見えるように書け
(字幕終わり)

このunfoldは自動詞で、ここでは「〔見えていなかった物が〕姿を現す(英辞郎)」です。「君らは、今、何が起こっているか分かっている」、「分かったことを読者にも知らせよ」が正しい解釈です。

次です。

(以下字幕)(長いので間を空けました。)

Is there any evidence to indicate that Iraq… has attempted to or is willing to supply terrorists…
イラクがテロリストを支援して

with weapons of mass destruction?
大量破壊兵器を提供する証拠は?

The reports that say that something hasn’t happened…
私には「なかった」という報告に

are always interesting to me because as we know…
興味を引かれる

there are known knowns, there are things we know we know.
我々には知っていることを知っている物事と

We also know there are known unknowns. That is to say, we know there are some things we do not know.
知らないことを知っている物事があるんだが

But there are also unknown unknowns. The one’s we don’t know we don’t know.
知らないことを知らない物事もあるんだ
(字幕終わり)

ラムズフェルドが政治家の御多分に漏れず何だからわけの分からないことをしゃべっていますが、整理してみます。

最初の文の意味は、丁寧に書くと「イラクがテロリストに大量破壊兵器を提供した証拠、またはしようとしている証拠はありますか」です。

there are known knowns以下が多少複雑です。there are things we know we knowは、直前のthere are known knownsの言い換えまたは補足説明です(2番目と3番目も同じです)。訳は、「既知の既知、つまり、存在することが分かっていて、その具体的内容も分かっているような物事」くらいでしょうか。

同じく、2番目は「既知の未知、つまり、存在することは分かっているが、その具体的内容は分からない物事」。That is to say=つまり/すなわち。That is to say, we know there are some things we do not know.が正式な文で(文法的にフル)、1番目と3番目は略式です。

3番目は「未知の未知、つまり、存在することが分からず、その具体的内容も分からない物事」。

次です。

(以下字幕)
LACK OF HARD EVIDENCE OF IRAQI WEAPONS WORRIES TOP OFFICIALS
政府高官によれば 大量破壊兵器の証拠なし
(字幕終わり)

「イラクが大量破壊兵器を保有しているという確かな証拠はなく、政府高官は憂慮/政府高官に焦りの色」などが正しい解釈です。「政府高官によれば」はありません。

次です。

(以下字幕)
U.S. SAYS HUSSEIN INTENSIFIES QUEST FOR A-BOMB PARTS(新聞の右上の見出し)
フセイン 核兵器を製造か?
(字幕終わり)

A-BOMB PARTSですから「核兵器の部品」です。「部品探しを強化している」と米国政府が主張しているのです。

次です。

(以下字幕)
If she wouldn’t talk to you about going into Iraq what makes you think she’s gonna go on the record on WMD?
また電話を切られたらどうするんだ?
(字幕終わり)

確かに、彼女にいつも電話を切られているようですが、ここの訳は飛躍しすぎです。going into Iraqのgo intoは「詳しく述べる、論じる」です。「彼女(情報提供者)は、いつも(電話で)イラクの話はいっさいしないのに、どうして、今電話をかけてWMD(大量破壊兵器)の情報をもらえる/提供してくれると思うんだ?」が直訳です。

次です。

(以下字幕)
But the U.S. military would be enormously effective… in this circumstance.
米軍は困難な状況下で最善を尽くしており
And I don’t think it would be that tough a fight.
厳しい状況を乗り越え
That is, I don’t think there’s any question… that we would prevail and we would achieve our objective.
何らかの結果を出すだろう
(字幕終わり)

翻訳とは原文に「付かず離れず」の訳文を書くことで、意訳はかまいませんが(意味を置き換えるという側面を考慮すれば、意訳は正しいのです)、飛躍はおすすめできません。

「米軍は困難な状況下で最善を尽くしており」はどこにもありません。直訳は、「米軍は、この状況では非常に効果的/強力だろう」。第2文は、「極めて厳しい戦いになるとは思っていない」であり、上の訳文は飛躍です。that tough a fightは、副詞that(=so)が形容詞の前にあるので倒置形(冠詞が後ろ)になっています。

第3文は、字数制限もあるでしょうが、もう少し丁寧に書くのが読者に親切です。「問題はないと思っており、(戦争になれば)我々は勝利し目的を果たすだろう」。

次です。

(以下字幕)
We got K-10, we got Dixie, we don’t need another source.
全部に当たった
You know we got this.
これは確かなネタだ
Look, when you’re accusing the secretary of defense… of running a shadow intelligence unit…
国防長官が秘密の戦略室を動かしているってのは
out of the Pentagon, it’s nice to have a little insurance.
すごい特ダネになるぜ
(字幕終わり)

K-10とDixieは情報提供者です。Look以下は少し長いですが、「国防長官がペンタゴン(国防総省)の中にある秘密の戦略室(秘密の情報室)を動かしているという事実を告発するときには、ちょっとした保険をかけておくのがいい」がフルの訳です。「保険」とは何か問題が起きたときの対応策です。run ~ out of ~ は、「~を本拠に~する」です。

次です。

(以下字幕)
REPORTER: Today’s UN Security Council resolution…
国連安保理決議は完全に行き詰まりました
can be boiled down to four words, the clock is ticking.
時間切れです
(字幕終わり)

「完全に行き詰まりました」ではないと思います。直訳は、「国連安保理決議(おそらく1441)は、次の4語(the clock is ticking)に要約されます。時間が押し迫っています」。「まもなく決議される」という意味です。

次です。

(以下字幕)
Rumsfeld’s been trying to sell this idea that an Iraqi…
99年にラムズフェルドは ビンラディンを匿ったのは
intelligence officer offered bin Laden safe haven in ’99.
“イラクだ”と吹聴していた
Yeah. Well, if that offer actually had happened…
実際イラクの誘いはあった
bin Laden would have told Saddam to go fuck himself.
だがビンラディンが蹴った
(字幕終わり)

「99年にラムズフェルドは、イラクの諜報員がビンラディンに隠れ場所を提供したという見解(噂)を流そうとしていた」が直訳です。

「そうだ。ただし、その申し出が実際にあったとしても、ビンラディンは、サダム・フセインに『そんなものいらない』と断っただろう」。仮定法過去完了ですから、実際にはそんなことはなかったのです。

次です。

(以下字幕)
And so what? Due diligence is too inconvenient for the mainstream media at this point?
大手はなぜ もっと慎重にならないの?
When news is a profit center…
売れるニュースが
Access becomes currency.
主流になる
(字幕終わり)

due diligenceは「慎重」というより「真摯、誠実、真剣」のニュアンスが強いように思えます。本来、経済用語ですが、ここでは「真実追究」の意味と思われます。accessは読者が新聞を読むことでしょう。読者が増えれば(新聞が売れれば)金になるのです。

大手メディアは、政府の画策を暴露しようとはしなかったのです。どこの国でもよくあることです。

次です。

(以下字幕)
I’m proud of you, John.
立派だわ
Why?
どこが?
For not wavering.
判別が難しいもの
It’s got to be tough.
(字幕終わり)

Why?はもちろん、「どこが?」ではなく「どうして/なぜ?」です。For not wavering.は理由を表し(for)、「(あなたの)考えが揺るがないから/動揺しないから」。It’s got to be tough.は「動揺しないことは難しいに違いない」です。

次です。

(以下字幕)
Look, as painful as this might seem… I don’t answer to you, John.
私から言うことはない
Yes, as evidenced by the fact that you still have a job.
普通ならクビだぞ
(字幕終わり)

answer to youは、「あんたのもとで働く」。したがって、Yes, as evidenced ~は、

「そうだ、それは、おまえが職を失っていないという事実で証明される」

「そうだ、俺のもとで働いていれば、俺はお前をとっくにクビにしている」

次です。

(以下字幕)
Higher levels of civilization…  
高度な文明社会とは
must depend even more heavily on a conscientious respect for the importance of honesty and clarity in reporting the facts and out of stubborn concern for accuracy in determining what the facts are.
報道の誠実さと明晰さの重要性を意識的に尊重できる社会であり 報道の内容が正確かどうかに疑いを持てる社会です
(字幕終わり)

長い文を解析、訳出してみます。

conscientious respectは、for the importance of honesty and clarity ~ とfor accuracy in determining ~ の両方にかかります。out of stubborn concernは挿入句で、前後にコンマを入れるとわかりやすいかもしれません(facts and, out of stubborn concern, for accuracy)。out of concernは、「恐れから/心配から」です。

「誠実かつ明瞭に事実を報道することが重要であり、また、厳粛な懸念のもとに何が事実かを正確に判別しなければならず、高度な文明社会の実現は、この2つの原則を良心に基づいて尊重するかどうかにかかっており、このことは近年さらに求められるようになっている。」

以上