映画「キング・オブ・ファイヤー(Henry VIII)後編」をみていて、クジラの公式(クジラ構文)に出会いましたので、紹介します。
いつもの通り、Potplayerで英語字幕を挿入し、スクリーンショットを撮りました。英語字幕は、opensubtitles.orgというサイトからダウンロードしました。今まではSubsceneというWebサイトのものを使っていましたが、突然閉鎖になったようです。下記のメッセージが掲載されていました。
Subscene is closed
Thank you all for a great journey.
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以下、映画「キング・オブ・ファイヤー」の画面です。


(以下字幕)
Remember how they ran, those French knights?
フランス兵は逃げた。
They no more wanted to fight than to have one single hair on their head disturbed!
やつらは戦争に勝つより、髪型のほうが大切だからな。
(字幕終わり)
少し古い映画なので、画像はよくありません。
They no more wanted to fight than to have one single hair on their head disturbed!
やつらは戦争に勝つより、髪型のほうが大切だからな。
上のセリフは、いわゆるクジラ構文(クジラの公式)です。A whale is no more a fish than a horse is.のようなシンプルな形ではないので、そうは見えないかもしれません。それと、than のあとに they wanted が省略されているので、なおさらそうかもしれません。補うと次のようになります。
They no more wanted to fight than (they wanted) to have one single hair on their head disturbed!
to have (=get) one single hair on their head disturbedの意味は、「(たった)一本の髪の毛が乱される/乱れる」です。
クジラの公式については、このサイトでもいくつか紹介しましたが、どうも、スッキリとした説明ができません。何か喉に引っかかっている感じです。そこで、ここで納得のいく解説にトライしてみます。
いろいろ資料を調べてみて、下記の二つの説明を有力候補として見つけました。少し長くなりますが、引用します。太字は、重要部分です。なお、AIは間違いもあるということですが、参考までにここに結果を紹介します。
(1)Google AIの検索結果
(以下、引用)
「クジラの公式」とは、英語の比較構文の一つで、「A is no more B than C is (D)」の形で「AがBでないのは、CがDでないのと同じだ」と訳される表現を指します。この構文は、クジラが魚ではないことを馬が魚ではない例を引いて説明する「A whale is no more a fish than a horse is.」という例文が有名であるため、「クジラの公式」と呼ばれています。
クジラの公式の基本
「クジラの公式」は、主に「no more…than~」という形で使われます。これは「~と同じく…ではない」という意味を表し、thanの前に言いたいこと、than以降に説得力を増すための具体例が来ます。
構文の解釈
否定の意味合い
「no more」の「no」が否定の意味を持つため、文全体としては否定的な意味合いになります。例えば、「A whale is no more a fish than a horse is.」は、「クジラが魚でないのは、馬が魚でないのと同じだ」と訳されます。
比較の差
この構文では、「no」を使うことで、比較対象間の「差」がゼロになることを示します。つまり、文の前半と後半が全く同じであるというニュアンスを含みます。
例文
• A whale is no more a fish than a horse is.
• クジラが魚でないのは、馬が魚でないのと同じだ。
• 馬が魚でないように、クジラも魚ではない。
注意点
誤解されやすい点
多くの参考書では「CがDではない」という否定文が英語には入っていないのに、否定文として訳すため分かりにくいとされています。また、「more」が使われているのに「同じ」と訳される点も混乱を招きやすいです。
慣用表現との違い
「A is no better than B」のように、「AとBは似たり寄ったり」という意味の慣用表現も存在しますが、これは「クジラの公式」とは異なるため注意が必要です。
(引用終わり)
(2)江川泰一郎著「英文法解説」の中の次の説明(§121の(2))。
(以下、引用)
(2) no more ~ than / not ~ any more than この構文は常に than 以下の内容が (形は肯定でも) 事実ではないという前提のもとに使われ, 「X が 〜でないのはY が~でないのと同じである」 「Yと同じように, X も~で はない」 の意味になる。
A whale is no more a fish than a horse is.
A whale is not a fish any more than a horse is.
(クジラが魚でないのは, 馬が魚でないのと同じである)
※いわゆるクジラの公式であるが, 直訳は「クジラは馬が魚である以上に魚ではない」 となる。ところが馬が魚でないことは常識的に自明であるから, 当然クジラも魚ではないという意 味になる。
He is no more able to speak Chinese than I am.
He is not able to speak Chinese any more than I am.
(彼は私と同じで, 中国語を話せません)
※この文にも 「私は中国語を話せません」 という前提がある。
You can no more be a diplomat without knowing any foreign language than you can engage in business without capital. (資本なしでは商売が できないように, 外国語を1つも知らなくては外交官にはなれない)
The ability to write poetry did not make any more money at that time than it does now. (今日でも同じであるが,当時も詩が書けても金にはなら なかった)
《参考》 次のような例を機械的に考えて,上の構文と混同してはいけない。
There is no more dangerous experiment than that of undertaking to be one thing before a man’s face and another behind his back. (A 前を取りつくろうとすることほど危険な試みはない)
(中略)
解説
(2) この構文の than 以下の内容の事実性ゼロについて,Wood (CEU, p.171)が適切な例を対照させて説明している 。
(a) He is no younger than I am (彼は私より決して若くはない)
(b) He is no more young than I am. (彼も私と同じで若くはない)
(a) は年齢の比較だけで,両人とも実際に young かどうかは不明である 。 (b) はI am (young) の事実性ゼロが前提になるから、両人とも young ではない 。
要するに,no more ~ than と not ~ any more than は比較の構文とい うよりも,否定を強調する(修辞的な)表現なのである 。強調の度合いは no more ~ thanよりも not ~ any more than のほうが強い (Quirk,CGEL,~ 15.70) 。
(引用終わり)
以上の重要部分(太字部分)を列記すると、次のようになります。
クジラの公式は、「~と同じく…ではない」という意味を表し、thanの前に言いたいこと、than以降に説得力を増すための具体例が来る。(Google AI)
また、
要するに,no more ~ than と not ~ any more than は比較の構文というよりも,否定を強調する(修辞的な)表現なのである 。強調の度合いは no more ~ thanよりも not ~ any more than のほうが強い (Quirk,CGEL,~ 15.70) 。(江川「英文法解説」)
以上の説明から、クジラの公式は、thanの前の部分を強調するため、than以下に例や事実、理由などを示した構文と言ってもいいかもしれません。
というわけで上記の説明にしたがって訳すと、They no more wanted to fight than (they wanted) to have one single hair on their head disturbed! は、
(フランス兵は)髪の毛一本、乱れるのも望まないのに、(剣を持って)戦うことなど絶対にしたくないのだ!
(フランス兵は)髪の毛一本、乱れるのも嫌なのに、(剣を持って)戦うなど論外なのだ!
くらいの訳になると思います(thanの前の部分を強調)。当時のフランス兵に対する揶揄、嘲笑です。
ところで、than以下がどうして肯定文なのかという疑問が残ります。これは、次のように解釈すると、少しは納得がいくかもしれません。
than以下の節の事実は、thanの前の節の事実に比べてさらに「否定的」(これはno moreまたはany ~ more thanで表現)である。
つまり、「否定」がthanの前の節とthan以下の節の両方にかかると考えると何とか分かるような気がします。文のパターンは異なりますが、unless節やlest節も、肯定文を従えるのに意味は否定であるのと似ています。
以上(2026年2月6日更新)